福岡地方裁判所 昭和58年(ワ)1482号 判決
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【判旨】
二1 <証拠>によると、
(一) 被告は、昭和四〇年三月四日、原告から本件農地を他二名の売主の所有土地とともに一括して代金一一五万九五〇〇円(昭和四一年二月二八日、右契約を確認しかつこれを補充して本件農地の代金は五九万五〇〇〇円と合意した。)で買い受けたと主張して、原告に対し、本件農地につき、(1)農地法五条の許可申請手続についての協力、(2)右許可があり次第所有権移転登記手続、(3)右許可があり次第引渡をなすことを求める訴えを福岡地方裁判所に提起し(同裁判所昭和四四年(ワ)第五九一号事件)、同裁判所は昭和四六年四月二八日右請求を認容する判決を言い渡し、福岡高等裁判所は昭和四七年三月二四日右判決に対する原告の控訴を棄却する旨の判決を言い渡し(同裁判所昭和四六年(ネ)第四三四号)、右判決に対し原告が上告したところ、最高裁判所は福岡高等裁判所に和解を嘱託し、その嘱託事件において成立したのが本件和解であること
(二) 右各判決においては、被告は、昭和四一年二月二八日、本件農地の売買代金五九万五〇〇〇円を原告に支払つたと認定されていること
(三) 本件農地は、昭和四六年ころ、農業振興地域の農用地区域に含まれることになり、以後今日まで農用地区域内に存すること(本件農地が農用地区域内に存することは当事者間に争いがない。)
(四) 原告は、本件和解成立前から、本件農地が農用地区域に含まれており、その限り農地法五条の許可を原則として受けられないことを知つていたこと
(五) 被告は、本件和解成立時には、本件農地が農用地区域内に存することを知らなかつたが、和解成立後間もなく本件農地が農用地区域内に存するから農用地区域から除外されなければ原則として農地法五条の許可がなされないことを知り、そのために本件和解に基づく農地法五条の許可申請をなさないまま時がたつこと
(六) 原告は、本件和解成立後、後記三1認定の催告をするまでは被告に対し、本件農地につき農地法五条の許可申請手続をなすよう求めたこともないこと
以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用しないし、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
2 原告本人尋問の結果中には、本件農地付近の地価は本件和解成立時ころから上昇しており、早急に農地法五条の許可申請をなさないと困ると考え、本件和解成立時にも早急に右許可申請手続をなすべき旨を被告に伝えており、早急に手続をするのは当然だということで和解条項にはそのことが記載されなかつた旨の部分がある。
しかしながら、本件和解はその条項からみても農地法五条の許可がなされうることを予定したものと解されること及び前認定1(四)、(六)認定の事実を併せ考えると原告自身本件農地について農地法五条の許可がなされうるには相当の時間を要することを、従つて本件和解で定められた事項が直ちには履行できないことを知つていたのではないかと考えられるから、原告本人尋問の結果中の右部分は採用できない。その他に、本件和解の際、本件和解で合意された各事項は速やかに履行されるべきであり、そうでない場合には本件和解を失効させるとの合意があつたとの事実を認めるに足りる証拠はない。
3 また、なるほど原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、本件農地付近の地価は本件和解成立後かなり上昇していることが認められるが、前1(一)(二)認定の事実に照らすと本件和解において被告が原告に支払うことを約した一二〇万円は厳密には本件農地の対価とは解されないし、前記証拠によると原告は本件和解成立時において今後本件農地付近の地価が上昇することは予想していたことが認められ、更に前認定のとおり原告はただちには本件農地について農地法五条の許可が原則としてなされないことを知つていたのであるから、本件農地の地価が本件和解成立後高謄したとしても、本件和解を失効させるほどの事情の変更があつたとは認められない。その他、本件和解を失効させるほどの事情の変更をうかがわしめる証拠はない。
4 以上の次第で、本件和解が失効したとの原告の主張は失当である。
三1 請求の原因3(二)の事実は当事者間に争いがない(宅地に転用するための農地の売買契約がなされた場合においては、買主が特段の事情もなく農地法五条の許可申請手続に協力しないときは、売主はこれを理由に売買契約を解除できるのである(最高裁判所昭和四二年四月六日判決、民集二一巻三号五三三頁)から、本件和解契約においても、被告は原告に対し本件農地につき農地法五条の許可申請手続に協力すべき義務を負つており、原告は被告の右義務違反を理由において本件和解契約を解除しうると解すべきである。)。
2 そこで、抗弁について判断する。
(一) 本件和解成立に至るまでの事情、和解成立後の事情、被告が本件農地について農地法五条の申請に協力しなくなつた事情は、前二1認定のとおりである。
(二) また、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると本件和解成立後今日まで本件農地が農用地区域から除外されるべく夜須町等に働きかける等の何らの努力をも行つていないことが認められる。
(三) 右認定のとおり、原告は、第一、二審において自己が敗訴した訴訟において、本件農地について、農用地区域から除外されない限り原則として農地法五条の許可がなされないことを知りながら、裁判所及び被告にこれを告げないままに農地法五条の許可申請手続協力義務及び右許可を条件とする所有権移転登記手続義務を負担することを含む本件和解をなし、その後本件農地が農用地区域から除外されるための何らの努力をもなさず(むしろ、証人有吉秀作の証言及び被告本人尋問の結果中には被告は本件農地を農用地区域から除外するよう夜須町等に働きかけるについての協力を求めたが拒絶された旨の部分すらある。)、農用地区域から除外されるのも待たないまま、本件農地が今日もなお農用地区域内にあつて原則として農地法五条の許可がなされないことを知り、右許可申請が不許可となるとこまる被告としては農地法五条の許可申請をなし得ないことを予想していたというべきであるにもかかわらず、右申請手続についての協力を催告したというのであるから、右事情のもとでは、被告が右申請についての協力をなさなかつたことを理由に本件和解契約を解除することは信義則に反し許されないと言うべきである。
(水上敏)